その店作りッ

私はッ 昭和三十七年(1962年)の生まれでございますッ

当時の日本橋界隈はッ 今と違って人々の生活の匂いが沢山詰まった温もりのある町でございましたッ!

幼い頃ッ 近所の足袋屋さんの軒先にある燕の巣にッ 毎年可愛い雛が生まれるのを楽しみにしたりッ 表通り以外は車も無くッ 路地裏の砂利道が僕たちの格好の遊び場でございましたッ!!

夕方ッ父に手を引かれて神田駅前までお使いに行く途中の中央通はッ 本屋さん酒屋さん布団屋さんに定食屋ッ・・・・・
所々に裸電球の明かりが点る長閑で温かなッ 正に琥珀色の街並みでございましたッ!!

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そんな幼い頃の日本橋風景が恋しくてッ 海老屋の店づくりも当時の面影を偲ばせる様に心がけてるんでございますッ・・・・・

日が暮れる頃ッ 店の明かりを少し落とすのもそのひとつッ!

たまにッ 立ち寄られたお客様から「なんだかここに居ると昔を思い出すねぇ〜ッ・・」
なんて言われるとッ ほんとに嬉しくなっちゃうッ!!

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昭和四十年代の初めッ 
それは私にとりましてッとっても大切な思い出の時代ッ そしてッ 海老屋の店作りの原点はッ そこにあるんでございますッ ・・・・・

半纏に想いを託すッ

その昔ッ祖父六代目がデザインした海老屋の判を元にッ 待望の海老屋の半纏を誂えたんでございますッ!!
その切っ掛けはッ 今は亡き父八代目が病の床に就く数年前ッ ちょうど長男が生まれて間も無い頃でございましたッ

「海老屋の半纏を一度作ってみるかッ!!」

何気ない父のその一言でございましたがッ それから後ッ様々なことが重なりッ想いを果たせせぬまま月日が経ってしまいましたッ ・・・
あの一言にッ 父の何か想いがあったのかッ 今となってはその想いを確かめることなど叶わぬ願いとッ・・・
ならばその一言を実現にッ!そして父の背中に羽織らせてあげたいッ!!! ただそれだけの気持ちでございましたッ・・・

スタッフ用と店主用ッ 父の半纏には八代目の文字を入れッ 私は九代目と入れましたッ!
そしてッ 二人の息子の内将来もしかして跡を継いでくれるとしたらッ・・・
そのときに備えて十代目の半纏も内緒で誂えましたッ!

半纏

跡を継ぐことを決心してくれた時ッ 渡してやろうと思っておりますッ
でもその時はッ 骨董の世界も今とはだいぶ事情が変わっていることでございましょうッ
厳しい状況を覚悟した上でッ 跡を継ぎたいと言ってくれる日を夢見ながらッ 海老屋のこの小豆色の半纏に想いを託しッ 今日も東へ西へと走り回っておりまするッ!!

やっぱしッ 父の想いは孫へのささやかな願いだったのでございましょうかッ・・・

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